昨今、どこの業界も人手不足が叫ばれていますが、特に運送業界においては、「物流の2024年問題」としてニュースでも取り上げられています。当然、国としても何らかの対応を迫られており、その解決策の一つとして外国人材の活用に注目が集まっています。現時点ではまだ決められていない箇所も多いですが、今の段階で分かっていることをピックアップしてまとめました。この記事は、外国人を運転手として雇用する場合に必要な在留資格について、専門家である行政書士が解説しています。
今すぐに雇用できる在留資格
前提として全ての外国人が自由に職業につけるわけではありません。在留資格ごとにできる仕事とできない仕事が決められています。例外として、下記の在留資格を持つ外国人は、日本人と同様にどのような職業にも就くことが可能です。採用予定の外国人が下記の在留資格に該当する場合は、就労するにあたり在留資格に関する手続きは必要ありません。
これらの在留資格でない外国人を運転手として採用する場合、例えば、留学生を新規に採用する場合は、在留資格「留学」から就労できる在留資格の変更が完了してから就労することができます。日本で就労するための在留資格は複数ありますが、外国人を運転手として雇用する場合の在留資格は、「特定技能」という在留資格になります。「特定技能」の在留資格は分野ごとに細分化されており、自動車運送業分野においては、トラック運送業、タクシー運送業、バス運送業の3つに分かれています。それぞれ要件が異なるため、当てはまる職種の項目を確認してください。
トラック運転手として外国人を雇用する場合
トラック運転手として雇用する外国人に求められる要件
トラック運転手として雇用する外国人に求められる要件は下記の通りです。
- 自動車運送業分野特定技能1号評価試験(トラック)について
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一般財団法人日本海事協会が自動車運送業分野特定技能1号評価試験(トラック)を実施します。この試験に合格しない限り、特定技能の在留資格を取得できません。試験内容は、運行管理者等の指導・監督の下、貨物自動車運送事業における運行前後の点検、安全な運行、乗務記録の作成や荷崩れを起こさない貨物の積付け等ができるレベルであるかを確認するものになります。なお、(公社)全日本トラック協会が外国人向けの学習テキストを公開しています。
試験情報について 令和6年7月16日時点の情報令和6年7月16日時点で試験はまだ実施されていません。
試験の内容、方法、開始時期などの情報については、追って一般財団法人日本海事協会に掲載される予定です。
試験情報について 令和6年12月13日時点の情報12月16日(月)より、出張試験が開始されます。CBT受験については、2025年3月以降に実施予定。
なお、受験資格は下記の通りです。
- 試験受験日に満17歳以上
- 日本又は外国の自動車運転免許の保有
※不法残留(オーバーステイ)の状態にある人は受験できません。
※イラン・イスラム共和国のパスポートで入国している人は受験できません。
詳細については、一般財団法人日本海事協会のHPをご確認ください。
- 第一種運転免許について
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運転免許がなければ、当然公道を走行することができないため、必須の資格になります。しかしながら、外国人にとって運転免許を取得するためには、日本語の学科試験を時間内に突破する必要があり、運転免許を取得するにはハードルがありました。
今年度からは、外国語による運転免許学科試験が全国で運用が開始されました。これにより外国人による運転免許取得が容易になり、外国人が自動車運送業分野で就労しやすくなったと言えるでしょう。
外国人による運転免許を第一種運転免許の学科試験は、現在20言語に対応しています。対応言語は、英語、英語、中国語、ベトナム語、ネパール語、スペイン語、ペルシャ語、韓国語、ポルトガル語、ロシア語、タイ語、タガログ語、インドネシア語、クメール語、ミャンマー語、モンゴル語、ウクライナ語、シンハラ語、ウルドゥー語、アラビア語、ヒンディー語になります。
福岡県における外国語による学科試験の運用開始時期は、福岡試験場令和6年6月28日、北九州、筑豊、筑後試験場は令和6年7月16日からになります。
第一種運転免許を持っていない外国人の採用について日本で有効な運転免許を所有していない外国人であっても、下記の要件を満たせば、例外的に6月間のみ雇用することができます。日本で有効な運転免許を保有していない期間については、車両の清掃といった関連作業に従事することができます。この場合、事前に在留資格を「特定活動」に変更する必要があります。※「特定活動」と「特定技能」は異なる在留資格です。注意しましょう。
この6か月間の間に第一種運転免許を取得して、「特定活動」から「特定技能」に在留資格を変更しましょう。6か月のうちに日本で有効な運転免許を取得できない場合は、「特定技能」に在留資格を変更できず、トラック運転手として引き続き雇用することはできません。この場合は、ほかの在留資格に変更する又は帰国するなど選択肢しかなく、必ずこの期間で運転免許を取得するようにしましょう。
- 日本語能力試験について
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特定技能には、一定の日本語能力が求められます。トラック運転手として必要な日本語能力を証明するために、日本語能力試験(N4以上)又は国際交流基金日本語基礎テストに合格している必要があります。日本語能力試験(N4)や基礎テストについては、ある程度日常会話ができ、生活に支障がない程度の日本語能力とされています。ざっくりとしたイメージになりますが、英検の3級と準2級の間が、日本語能力試験(N4)に相当します。一般的に日本語を300~400時間程度すれば、日本語能力試験(N4)は合格できるため、日本にいる留学生にとっては合格は簡単でしょう。
また、技能実習生(業種は問いません)の第2号を良好に修了した者については、日本語能力があると認められ、試験に合格しているとみなされます。
日本語能力試験(N4)に合格しているか、国際交流基金日本語基礎テストに合格しているか、技能実習の第2号を良好に修了しているか、いづれかに該当する場合は、日本語能力の要件を満たしています。
会社に求められる要件
外国人をトラック運転手として雇用する会社に求められる要件は下記の通りです。
- 自動車運送事業を経営する者であること
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運送業を営むための許可を取得している必要があります。トラックで運送業を営むのであれば、一般貨物自動車運送事業許可を取得しなければなりません。
- 自動車運送業分野特定技能協議会に加入すること
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自動車運送業分野特定技能協議会とは、自動車運送業分野における特定技能制度の適切な運用を図るために設置されている団体になります。特定技能の外国人を雇用する企業は、必ず加入しなければなりません。原則、協議会への加入は、外国人ドライバーが就労する前に行わなければなりません。協議会の構成員であることの証明書は、特定技能の在留資格に変更するときに必須の書類になります。
自動車運送業分野特定技能協議会への加入方法について令和6年7月16日時点で自動車運送業分野特定技能協議会の加入方法は、公表されておりません。
※自動車整備分野特定技能協議会と自動車運送業分野特定技能協議会は異なります。情報を調べる際には混同しないように注意してください。
令和6年6月15日以前は、特定技能外国人の初回の受入れから4か月以内に協議会への加入すれば問題ありませんでした。しかし、令和6年6月15日以降から取扱いが変更されて、初回受入れ企業についても一律に協議会への加入を在留資格変更時点で求めれています。自動車運送業分野においても他分野と同様の取扱いになると予想されますが、入管からの正式な発表が待たれます。
- 運転者職場環境良好度認証制度に基づく認証を受けた者であること
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運転者職場環境良好度認証制度(別名:働きやすい職場認証制度)とは、一般財団法人日本海事協会が実施している職場環境についての認定制度です。運転者の労働条件や労働環境について一定の基準を満たしている事業者は、一般財団法人日本海事協会に申請を行い、認定を受けます。運送事業の許可取得後3年以上経過していることなど認定を受けるためには要件があります。
電子申請又は書面にて申請を受け付けており、電子申請は書面よりも審査料が安いので、電子申請をおすすめします。また、令和6年度の申請受付は9月15日までになります。詳細については、一般財団法人日本海事協会の「自動車運送事業者の働きやすい職場認証制度」をご覧ください。
- 安全性優良事業所を有する者であること
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安全性優良事業所を有する者(Gマーク制度)とは、全国貨物自動車運送適正化事業実施機関によって安全性を評価され認定された事業所になります。
- 労働、社会保険、租税に関する法律を遵守していること
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労働関係法令、社会保険関係法令、租税関係法令を遵守している必要があります。具体的には、労働基準法等の基準にのっとって特定技能雇用契約が締結されていること、労働保険、健康保険、年金などを納付を行っていること、所得税などの国税や法人市民税などを納付を行っていることなどが求められます。
社会保険や税金に未納がある場合社会保険料の未納があった場合でも、納付を今からでも行えば、社会保険関係法令を遵守しているとされます。税金に関しても、同様に納付を行えば、租税関係法令を遵守しているとみなされます。
- 同種の業務に従事する労働者の非自発的離職を発生させていないこと
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特定技能の外国人との雇用契約の締結の日前1年以内又はその締結の日以後に、当該特定技能雇用契約において外国人が従事することとされている業務と同種の業務に従事していた労働者が非自発的に離職していないことが求められます。定年、懲戒解雇、有期労働契約で期間満了に伴い退職、自発的な退職は上記の内容には含まれません。この特定技能の制度が、人材不足を補うためのものであるため、このような規定があります。会社都合で労働者を解雇して代わりに外国人を雇用することはできません。
- 欠格事由に該当してないこと
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会社の役員に関して、禁錮刑以上の刑、入管法や労働法などの罰金刑に処された者は、刑の執行から5年以上経過していることが求められます。また、暴力団についても排除の規定があります。
- 外国人を直接雇用すること
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自動車運送業分野においては特定技能で外国人を雇用する場合は、直接雇用をしなければなりません。また、所定労働は通常の労働者の所定労働時間と同じであることが求められます。また、外国人だからといって低賃金で雇用することはできません。
- 外国人へのサポート体制が整えられていること
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特定技能の外国人を雇用するには、必ず実施しないといけない支援があります。具体的には、外国人に対して労働条件などについて説明する事前ガイダンス、日本で生活する上で必要なルールやマナーを学ぶ生活オリエンテーション、定期的な面談などが義務として課せられます。
これらの業務を自社で行う場合は、過去2年間に中長期在留者の生活相談業務への従事経験がある役職員の中から支援責任者及び支援担当者を選任したり、過去2年間に中長期在留者の受入れ又は管理を適正に行った実績があること」及び「役職員の中から支援責任者及び支援担当者を選任していることを満たす必要があり、初めて外国人を雇用する会社にとっては自社で支援業務を行うには、要件を満たしていないことが多いです。
そのような場合は、これらの支援業務を登録支援機関と呼ばれる会社又は個人に委託することがほとんどです。登録支援機関の一覧リストは、入管庁のHPに公開されています。委託料はピンキリですが、相場としては一人につき月額2万円から5万円の間になります。登録支援支援料を特定技能の外国人の給与から天引きすることはできません。
タクシードライバーとして雇用する場合
タクシー運転手として雇用する外国人に求められる要件
タクシードライバーとして雇用する外国人に求められる要件は下記の通りです。トラック運転手として雇用する場合と異なり、第二種免許の取得が求められます。
- 自動車運送業分野特定技能1号評価試験(タクシー)について
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一般財団法人日本海事協会が自動車運送業分野特定技能1号評価試験(トラック)を実施します。試験内容は、運行管理者等の指導・監督の下、一般乗用旅客自動車運送事業における運行前後の点検、安全な運行、乗務記録の作成や乗客対応等ができるレベルであることを確認するものであり、第二種運転免許の学科試験に準拠した内容を含むものとなります。
試験情報について 令和6年7月16日時点の情報令和6年7月16日時点で試験はまだ実施されていません。
試験の内容、方法、開始時期などの情報については、追って一般財団法人日本海事協会に掲載される予定です。
現時点でいつ試験があるか分かりません。急に告知され、気づいたら試験受付日が過ぎていたということがないように定期的に上記のサイトを確認されることをお勧めします。
- 第二種運転免許について
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トラック運転手と異なり、旅客を乗せて運転する場合は、第二種運転免許が必須になります。第二種運転免許の学科試験に関しても20言語での学科試験受験が認められるようになったため、外国人にとって第二種運転免許しやすくなったと言えるでしょう。
第二種運転免許を取得していない外国人の採用について現時点で第二種運転免許を保有している外国人は非常に少なく、この要件に合致する外国人材がいないのが現状です。このため、まだ運転免許を取得していない外国人であっても下記の要件を満たせば、例外的に雇用することができます。当然、第二種運転免許を取得していないのであれば、車を運転することはできませんが、車両の清掃などの関連業務に従事することができます。
なお、その外国人を第二種運転免許なしで雇用できる期間は1年間のみです。1年以内に第二種運転免許の取得や新任運転者研修の受講を行うようにして、特定技能への変更を準備しましょう。
また、この期間を利用する場合は、事前に在留資格を「特定活動」に変更する必要があります。※「特定活動」と「特定技能」は異なる在留資格です。注意しましょう。
- 日本語能力試験について
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特定技能には一定の日本語能力が求められます。特にタクシー運転手は、乗客とのコミュニケーションが必要になるため、と外国人に求められる日本語能力もより高く設定されています。具体的には、日本語能力試験(N3以上)又は日本語教育の参照枠のB1相当以上の水準が必要になります。
日本語能力試験(N3以上)については、これまたざっくりとしたイメージですが、日本語能力試験(N3)は英検の準2級に相当します。日本語学習時間でいうと600時間程度と言われており、日本語能力試験(N3)に合格している外国人であれば、日本語で十分に意思疎通が可能です。
面接の際は日本語能力試験N3以上に合格しているか確認しましょう。
会社に求められる要件
外国人をタクシードライバーとして雇用する会社に求められる要件は下記の通りです。基本的にトラック運送業を営む会社に求められる要件と同じですが、新任運転者研修を実施することが別途求められます。
タクシードライバーとして雇用する場合は、「特定技能」のほかに「特定活動(46号)」という在留資格があります。ただ、「特定活動(46号)」を取得するには、日本の大学や大学院を卒業していないければなりません。また、「日本語能力試験N1」又は「BJTビジネス日本語能力テストで480点以上」を取得するか、大学又は大学院において「日本語」を専攻している必要があります。
対象となる外国人が少ないため、「特定活動(46号)」はあまり利用されません。しかし、もし該当するのであれば、こちらは支援業務が必須でないため、登録支援機関に登録支援料を払う必要がなく、経済的だと言えます。また、日本語能力試験N1は最も難しい試験になるため、N1を取得している外国人とコミュニケーションで問題が生じることは滅多にないでしょう。
外国人留学生の就活促進を目指して、「特定活動(46号)」の対象が拡大されました。日本の短期大学や高専、一部の専門学校を卒業した留学生についても対象となります。
「専修学校の専門課程における外国人留学生キャリア形成促進プログラムの認定」を受けたた専修学校専門課程の学科を卒業して、高度専門士の称号を付与された留学生が対象となります。
バス運転手として外国人を雇用する場合
バス運転手として雇用する外国人に求められる要件
タクシードライバーとして雇用する外国人に求められる要件は下記の通りです。
- 自動車運送業分野特定技能1号評価試験(バス)について
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一般財団法人日本海事協会において、自動車運送業分野特定技能1号評価試験(バス)が実施されます。試験に合格しなければ、特定技能の在留資格に変更することはできません。試験内容については、運行管理者等の指導・監督の下、一般乗合旅客自動車運送事業、一般貸切旅客自動車運送事業又は特定旅客自動車運送事業における運行前後の点検、安全な運行、乗務記録の作成や乗客対応等、第二種運転免許の学科試験に準拠した内容を含むものになります。
試験情報について 令和6年7月16日時点の情報他の試験同様に令和6年7月16日時点で試験はまだ実施されていません。
試験の内容、方法、開始時期などの情報については、追って一般財団法人日本海事協会に掲載される予定です。
- 第二種運転免許について
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外国人をバス運転手として雇用する場合についても、当然ながら第二種運転免許を保有していることが必要になります。
前述のとおり、今年度から全国で外国語による運転免許学科試験が全国で運用が開始されています。今後、外国人の第二種運転免許所有者が増えることが予想されるため、
第二種運転免許を取得していない外国人の採用について現時点で第二種運転免許を保有している外国人は非常に少なく、この要件に合致する外国人材がいないのが現状です。このため、まだ運転免許を取得していない外国人であっても下記の要件を満たせば、例外的に雇用することができます。
その外国人を第二種運転免許なしで雇用できる期間は、1年間のみになります。上記の期間中は、運転手としての業務はできませんが、運転手が行うことが想定されている車両の清掃などの関連する業務であれば従事することができます。この期間を利用する場合は、事前に在留資格を「特定活動」に変更する必要があります。なお、「特定活動」と「特定技能」は異なる在留資格です。
第二種運転免許が取得できない場合は、帰国や転職なども考えなければならないため、可能な限り早めの取得して、在留資格を特定技能に変更しましょう。
- 日本語能力試験について
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タクシードライバー同様にバス運転手についても、乗客への説明や事故時等の緊急時の対応が必要となるため、外国人バス運転手には日本語能力試験(N3以上)又は日本語教育の参照枠のB1相当以上の水準が求められます。採用にあたっては事前の確認をお勧めします。
会社に求められる要件
外国人をバス運転手として雇用する会社に求められる要件は下記の通りです。タクシー運送業を営む会社に求められる要件と同じになります。
まとめ
自動車運送業分野特定技能1号評価試験の実施日程や自動車運送業分野特定技能協議会への加入方法など、未だに発表されていないことが多いですが、現時点で分かっている要件に適合するかを確認しておきましょう。雇用する外国人が既に決まっている場合で、日本語能力試験や運転免許をまだ取得していない場合は、なるべく早く取得するように案内しましょう。
試験 | 免許 | 日本語の試験 | |
トラック運転手 | 自動車運送業分野特定技能 1号評価試験 (トラック) | 第一種運転免許 | JFT-Basic又は JLPT(N4以上) |
タクシードライバー | 自動車運送業分野特定技能 1号評価試験 (タクシー) | 第二種運転免許 | JLPT(N3以上) |
バス運転手 | 自動車運送業分野特定技能 1号評価試験 (バス) | 第二種運転免許 | JLPT(N3以上) |
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