デジタルノマドの特定活動「デジタルノマドビザ」

2024年2月3日、出入国在留管理庁より、「出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二号の規定に基づき同法別表第一の五の表の下欄に掲げる活動を定める件の一部を改正する件(案)」等に係る意見募集が公表されました。

これは、いわゆる「デジタルノマドビザ」の制度化に関するパブリックコメント募集です。

出入国管理及び難民認定法の一部改正案で、在留資格「特定活動」の範囲に新たに「位置にとらわれない働き方をすること」を加えることなどを提案したものです。デジタルノマドと呼ばれる人々の長期滞在を可能にする新しい在留資格の創設が検討されているということです。

デジタルノマドについて少しだけ解説いたします。

デジタルノマドとは

IT技術の進歩にともない、様々な職業や働き方が生まれてきました。YouTuberやテレワークなど、四半世紀では想像することなどできませんでした。国内のITエンジニアは不足していると言われて久しいですが、デジタルノマドと呼ばれる人々に注目が集まっているようです。

コロナで一斉に普及したリモートワークで居所に囚われずに世界中を旅をしつつ、IT関係の仕事を請け負って生活している人たちを、「デジタル」+「ノマド(遊牧民、放浪者の意味)」と呼称します。

入管の取り扱い

短期滞在の在留資格で観光客として日本に滞在していたデジタルノマドの人たちに「特定活動」の在留資格を付与して、このような人材が日本に滞在して経済効果をもたらすことを政府は期待しているようです。
入管業務を扱う行政書士として興味深いのは、これまで入管がノータッチ(見て見ぬふり)をしてきたデジタルノマドに在留資格を与える方向になったことです。ちょっとここを深堀して解説していきたいと思います。

日本で就労するには、就労のための在留資格を取得しなければなりません。デジタルノマドのようなIT関係の仕事であれば。技術・人文知識・国際業務という在留資格が当てはまります。「今回のようなデジタルノマドの人も技術・人文知識・国際業務の在留資格を取得して、日本に在留すればいいのではないか」と思われるかもしれませんが、デジタルノマドの人も技術・人文知識・国際業務の在留資格に該当しません。

技術・人文知識・国際業務に該当する活動は下記のように定められています。

本邦の公私の機関との契約に基づいて行う理学、工学その他の自然科学の分野若しくは法律学、経済学、社会学その他の人文科学の分野に属する技術若しくは知識を要する業務又は外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務に従事する活動

https://www.moj.go.jp/isa/applications/status/gijinkoku.html

技術・人文知識・国際業務の在留資格を取得するには、「本邦の公私の機関との契約」つまり日本にある企業などの契約が必要になります。デジタルノマドの人々が行う仕事は、日本の企業からの依頼であることは少数でしょう。母国やこれまで滞在した国の企業や個人からの依頼では、技術・人文知識・国際業務の在留資格が求める「本邦の公私の機関との契約」には該当せず、申請をしても技術・人文知識・国際業務の要件を満たしていないことになります。

現在、在留資格は29種類ありますが、これまでデジタルノマドのような人々の活動を公に認めた在留資格はありませんでした。観光する目的で短期滞在の在留資格で入国しても、入管は一人一人なにをしているか把握しようがありません。まれに短期滞在で入国して、不法残留や不法就労で摘発されるケースもありますが、これは主に就労先の摘発で発覚するケースが多いように感じます。デジタルノマドのように本邦に滞在しつつ、海外の企業から仕事をリモートで仕事を行うようなケースは、これまでの入管法で想定されていないことは明らかでしょう。このような新しい働き方に対応すべくデジタルノマドの人々を対象に特定活動の在留資格を創設する方向で政府は動いているようです。

要件

まだ具体的な要件は定まっていないようですが、各社の報道を見ると以下のようにまとめられるようです。

  • 査証免除国であること
  • 租税条約を締結している国であること
  • 年収が1000万円を超えること
  • 民間の医療保険に加入していること

査証免除国であるということは、現在70の国と地域が対象になります。査証(VISA)が免除される国の一覧は外務省のホームページから確認できます。(外務省「ビザ免除国・地域(短期滞在)

租税条約を締結している国については、財務省が締結国一覧を公表しています。(財務省「我が国の租税条約等の一覧」

年収が1000万円を超えていることという要件については、まだ疑問が残ります。一般的に収入を疎明する場合、日本の課税証明書を提出することになりますが、当然デジタルノマドの人たちはそのような証明書を取得することができません。預金通帳のコピーで代用できるのか、本国の課税証明書にあたる書類を取得する必要があるのか、今後の取り扱いが気になるところです。

民間の医療保険に加入していることを要件にあげていますが、3か月以上の在留資格が付与されるのであれば、住民登録と国民健康保険に加入しなければなりません。正直、この要件に意味があるのか疑問が残りますが、あくまでも短期滞在の延長で国民や中長期在留者の負担にならないように民間の保険に入ることが要件として設定されているのかもしれません。

その他

配偶者と子どもが帯同可能で最長6か月の在留資格が与えられます。これは特定活動46号(N1特活)と特定活動47号(N1特活の配偶者等の在留資格)のようなものになるかと思います。

結論

要件など具体的な話は挙がっていますが、いざ申請や審査となると現場(入管)は大変かと思います。今後、詳しいアナウンスが入管からあると思うので、それを待ちつつ情報収集を行っていきます。

在留資格のことはアンカー行政書士事務所にお任せください!最新の情報をキャッチアップしつつ、お客様にベストなサポートを行ってまいります。

追記:デジタルノマドについて入管HPに必要書類が掲載されました。

入管のHPにデジタルノマドの在留資格についての情報が公開されました。デジタルノマドとして在留資格を取得できる人は下記の要件に当てはまる人です。

  1. 日本滞在期間中、海外旅行傷害保険等の医療保険に加入していること
  2. 年収が1,000万円以上あること
  3. 査証免除国かつ租税条約締結国・地域の国籍を有していること
  4. 日本滞在期間が6か月を超えないこと
入管 在留資格「特定活動」(デジタルノマド(国際的なリモートワーク等を目的として本邦に滞在する者)及びその配偶者・子)
https://www.moj.go.jp/isa/applications/status/designatedactivities10_00001.html

1.については、傷害疾病への治療費用補償額は1,000万円以上が必要と記載があります。一般的なクレジットカードに附帯している海外旅行保険は、300万円前後のイメージがありますから、約款を確認しておく必要がありますね。

3.については、デジタルノマドビザが取得できる国籍が入管のHPに公表されています。現在のところ、これらの国籍でない場合は、デジタルノマドの在留資格を取得するのはできません。ただ、査証免除国が増えて租税条約を締結する国が増えていけば、デジタルノマドの在留資格を取得できる国籍も増えていくことになるでしょう。査証免除や租税条約は、外交に大きく左右されることであるため、日々最新の情報を確認しておくことが必要になります。

すでに出ていた情報と大きな変更点はないと感じます。今後の如何にこの在留資格が活用されていくか注目です。

外務省 ビザ免除国・地域(短期滞在)

財務省 我が国の租税条約等の一覧